ワシントン・スクウェアが見える。ここはドラッグ・ディーラーのたまり場だ。入口のところに黒人のでディーラーが何人も立っていて、「スモーク、スモーク」とささやきかけてくる。寒いのでひと通りは少ないが、目をこらすと、ガリバルディの銅像の近くのベンチで寝ているやつがいる。
ここで夜をすごすのは馬鹿げている。「公園のベンチに30分以上いてはいけません」あの医者は言った。最初寒さを感じたのに、じきに寒さを感じなくなるのが怖い。やがて手が硬直し、足が麻痺してくる。歩かなければならない。
あなたは、ある夏の日、この公園で寝ていたことがある。「タバコをくれないか」と近づいてきた黒人の男がいた。あなたはタバコを吸わなくなっていたので、「もってないんだ、すまないな」と言うと、「お前も失業したか」と言った。あなたが、「ヤー」と答えたのは、別に失業も何も、根っからのフーテンで、景気の波とは無関係の生活をしていたからだ。